神アレ

「おはようございます、神田」
「・・・どういうつもりだ」

朝からこれはある意味問題だ。

まず、扉に鍵をかけておいたのに何故室内に入り込んでいるのか。コイツが器用にピッキングなど出来るわけもなく―――扉の方に目を向けると、無惨に破壊された扉だったものの破片が散乱している。

(・・・またコムイに頭下げなきゃなんねぇじゃねぇか・・・)

こんなくだらないことで借りを作りたくはないが、部屋の扉がない状態はなんとしてでも避けたい。

「やだなぁ、神田、判ってて言ってるんでしょ?」
「・・・何がだ」
「・・・・・・神田、まさかキミは去年に引き続き忘れてるんですか?」
「だから何がだ」
「信じられませんね・・・まずなんで忘れられるのか分かりませんよ、神田。
 あ、やっぱりバ神田だからですか?」
「・・・刻まれてぇのか」
「どうにしたってバ神田には変わり無いじゃないですか」

はあ、と目の前で深刻そうな溜め息を吐かれるが、溜め息を吐きたいのは間違いなくこちらの方だ。
もう一つ問題なのは、目の前で馬乗りになっているコイツ。
思わずその白銀と目が合ってしまい、視線を逸らす。けれど一歩遅かったらしく、視界の端でやけに機嫌の良さそうな笑みを浮かべている。

「神田、本気で僕がこうしてる意味、分かってないんですか?」
「・・・分かんねえよ」
「去年も同じやりとりしたことなんて、君は覚えてないんでしょうね・・・」

少し寂しそうに、小さく呟きアレンは口付けてきた。始めは軽く、段々と深く。
ようやく頭の片隅に浮かんできたのは、思い出したくもない忌まわしい過去の記憶。

「お誕生日、おめでとうございます神田」

聞けて嬉しいのか、それともそれを口にするなと言うべきなのか。

「まさか今年も忘れられてるなんて、ショックですよ」
「・・・思い出したくもねぇ」
「知ってますよ」

思わず視線を上げて、アレンの顔を見る。
まるで聖母のような、全てを悟り受け止める、大器の表情をしたアレンに思わず目を奪われた。

「・・・ちっ」
「神田?」

ぐいっ、とアレンの片腕を引き寄せれば、アレンの体は簡単に崩れ落ちた。多少の衝撃は来るものの、不安定な体勢よりもまだこの方がましだ。
アレンは特に不満を口にするわけでもなく、伏したまま無言。ただ、その口元は僅かに弧を描いているようにも見える。

「なんです、神田も欲求不満ですか?」
「てめぇみたいな万年発情期と一緒にすんな」
「失礼ですね、誰が万年発情期ですか。誰にでもそうな訳じゃないですよ」
「俺だけにってか。
 道化師は随分と口が達者なんだな?」
「あぁ、僕が道化師だって、バレてました?」
「隠すつもりがあったのかよ」
「結構普段は分からないでしょう?」
「モロバレだ」

つい、といたずらに腰辺りを掌で撫でてやる。そんな些細な動きにもアレンの身体は従順に反応を起こす。
若い白魚のように跳ねた体を、手のひらで上から押さえ付ける。
そのままアレンをベッドへと押し付け、上へ乗り上げる。それと同時に、アレンの表情が引きつった。

「神田・・・?君、今凄い悪そうな顔してますけど・・・?」
「今日は「俺の誕生日」だからな。勿論、奉仕してくれんだろ」

アレンの悲鳴は、音になる前に食われて消え、その後半日は神田の部屋に誰も近づけなかったと、後にリナリーによってコムイへと知らされることになる。


「神田くん?あのね、アレンくんを拉致して食べちゃうのはいいけど、君せめてドア直してから、にしようね?」

その日の午後、鬼のような形相をしたコムイが、反対にやけに満足そうな顔をした神田を捕まえて説教をしているのが、多くの団員に目撃されたという。





神田誕生日おめでとう!!
去年祝い損ねたのをリサイクルしました。




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